私は2007年〜2012年まで「おたく」を経験しました。それ以降は、ここで起きていたことをまとめておたくの世界を文章化する活動をしております。今回は、現代アイドルシーンを代表する「AKB48」の現場について取り上げます。
会いに行かなかったヲタデビュー
2007年6月某日、早朝4時。
東京・秋葉原のドン・キホーテ秋葉原店入り口に並んでいました。
私は友人とともにAKB48の劇場公演を見に行きたい!という想いでドン・キホーテの8階にあるAKB48劇場に初めて行くこととなりました。
・・・しかし、公演を見る目的ではなく、生写真を手に入れるためだけに並んでいたのです。
「B.L.T.」というアイドル雑誌に付いてくる生写真。ここで手に入る「生写真」は店頭で売っているそれとは違い劇場限定の生写真。
まだ夜も開けぬうちからヲタは、お目当ての写真が手に入ることを願って止みませんでした。生写真の中にはメンバーの手書きのサインが入っているものもあり、それを手に入れたヲタは震えが止まらないくらい興奮すると聞きました。
ちなみに、私はこの時点で「推しメン」と呼ばれるメンバーはおりません。ただただ「AKBって何ぞや?」そんな疑問を持ちつつ並んでいたのですから・・・
10時間以上待って、たった5枚。
このBLTの写真が手に入るのは何時ごろからだったのか?と言いますと、午後3時からだというのです!
しかも1人が購入できるB.L.T.の数は5冊まで。
もちろんほとんどのヲタは雑誌が欲しいわけではなく、どんな生写真が出るのかというドキドキだけで10時間以上待っていたのです。私もその1人になっていました。
午前10時を過ぎ、AKB48劇場のスタッフがやってきて「割り込み防止券」を配布してきました。ヲタ界隈の中では”割防”と省略されました。
この時点で私たちが場所をとっていたドン・キホーテ入口から中央通り沿いを南へ50mほど進んだ場所まで列が並んでいたのです。しつこいようですが、劇場公演を見ない人々が。
そしてもう十分待ちに待った午後3時。スタッフの誘導とともにAKB48劇場のある8階に上り「雑誌付き生写真」を購入したのでした。
生写真が入った紙袋を開封してみると「この娘誰?」という写真が次から次へとお目見え。知ってるメンバーは当然いません。あとから詳しいヲタから聞いた話によると、私が引き当てた生写真は「干されメン」だったようです。
干されメンとはファンから干されているメンバーのことを指し、他のメンバーに比べて人気がなかったアイドルを意味します。逆に人気があるメンバーは「推されメン」と呼ばれていました。
私とは対照的に、良い写真を引き当てたヲタは狂喜乱舞。そのヲタと知り合い、近くの喫茶店に入ると鞄の中から分厚いアルバムが出るわ出るわ!
このヲタはだいぶ前からB.L.T.の写真を集めており、トレードを始めるのでした。
写真集めに命を注ぐヲタ
ヲタ同士で生写真をトレードするという話はその以前から聞いておりましたが、これほどまでに膨大なコレクションと相手するとは・・・唖然とした私。
どうやらそのヲタは私が気に入った写真があったらそれを渡す代わりに、私の写真を入手するというトレードを要望しました。
たくさんの生写真の中から、当時私が唯一知っていた大島麻衣さんの生写真が欲しいと伝えました。
するとそのヲタは「あなたの生写真を3枚欲しい」と言ってきました。
これはどういうことでしょうか?
大島麻衣さんは推されメンであったため、私が持っていた干されメンの写真とは価値が釣り合わないということのようです。
すなわち、大島麻衣さん:1枚=干されメン:3枚というレートが成り立っているようでした。
このレートが正しいものなのか分かりませんでしたし、写真をたくさん持っていても仕方なかったためその条件を受け入れることにしました。
このようなヲタ同士で生写真をやりとりするコレクターは、mixiを通じてAKB48劇場で待ち合わせし、その場で写真を見せあったり売買を行っていったのです。写真トレードがメインのヲタは劇場公演にあまり関心がなく、これ自体を生きがいとしているようでした。
公演を見れなくても劇場に通うヲタ
2008年の夏休み、私はほぼ毎日秋葉原のAKB48劇場に通い詰めていました。この日も劇場公演に当たっていればチーム問わず入り、そうでない時はロビーでモニターを眺めながら鑑賞(ロビ観)していました。
ロビ観とは、劇場内のロビーに設置されたモニターを眺めて公演を鑑賞するものです。当然、生の鑑賞に比べたら臨場感がありませんが、劇場とは壁1枚しか隔てていませんので漏れた音を聞きつつモニターを眺めるという感じでした。
そして、そのようなヲタが日々集結し、常連となっていきました。
実はロビ観をしていると様々な出来事に遭遇します。当時チームBのメンバーだったKさんが、異性と写っているプリクラ写真が流出したのです。
Kさんの話題はヲタの間でも広がっていました。数日後、某スポーツ新聞に大々的に掲載されてしまったのです。
その日の夜、AKB48のオフィシャルブログにてKさんの解雇が発表されました。「卒業」ではなく「解雇」という処分に、ロビーにいたヲタ達は驚いていましたがまだ信じられない者もいました。
この発表のおよそ10分後、劇場スタッフが動きました。
ロビーにはメンバー全員の壁掛け写真があります。
↑当然、Kさんの顔写真も壁にかけられていましたが
これで現場ヲタの一部が涌き上がりました!そして彼らが向かった先は・・・プリクラマシーン!
当時、AKB48劇場ロビー隅には「バーチャル2ショットマシーン」なるものがありました。そこには”解雇されたばかりの”Kさんと一緒に撮影できる機能があったため、プリクラとまったく同じポーズで撮影したのです。
劇場スタッフのGさんが一応注意するも「やれやれ」という感じでした(笑)
なお、Kさんは研究生オーディションに合格してAKB48に復帰したのち2014年に卒業。その1年後には1児のママになっていました。お相手は一般男性ということですが、Kさんのガチヲタだったかどうか、明かされる日が来ることはありません。
握手会会場で踊るヲタ
ヲタ界隈で有名なヲタは大勢いましたが、中でも「たもさん」の存在は強烈でした。
AKB48の握手会が幕張メッセや東京ビッグサイトで大規模に行われるようになると、メンバーとの握手はもちろん、生写真のトレード会場を兼ねるようになりました。そしてそこには大型モニターが設置されて、不定期にシングルCDのPVが流れていました。
そのPVで踊っているメンバーに合わせてキレのある踊りをしていたのがたもさんです。
たもさんの周りには時間潰し目的のヲタが集まってギャラリー化し、アイドルよりも目を引く場面がありました。
何がたもさんのモチベーションとなっているのか私には詳細を知る術がありませんでしたが、AKB48劇場の公演は年々倍率が高くなり、必ずしも公演を見ることが全てのヲタの目標ではない事実を握手会の現場で知るのでした。